今でも覚えている,この人のお嫁さんはたいそう幸せだろうと,まだ銀色の幸せが彼の薬指に,まるで鎖のように付いていた頃から,私はそう思ってしまっていた。

 

縁,としかいいようがない,私の母親は覚醒剤取締法違反で福島拘置支所に3年服役していた,当てつけのつもりだった,色んな理由や言い訳をかき集め,私をおろそかにした,そしてそれを忘れた母への復讐のつもりだった,三世代に前科者がいると保安関係の職に就けないという噂もあったので母に責任者の署名は頼まなかった

 

明くる日の朝,今でもその時の朝,熱さ,眩しさ,緊張感を覚えている

 

あの日,カーテンから覗く光は,私を導いた,そして捕らわれた。

 

prisnon

 

とても上品で,似合っていると思った,彼はその時から離婚調停中だったというが,銀色の指輪の輝きは文字では表せないほどに美しかった,誘われた,充てられた,今思えば特別な感情を覚えていた,それは例えば,そう,私は一時期シェルターで過ごしていた,そこには頼れるお兄ちゃん的存在がいて,彼はそんな存在だった。

 

私は人の目を見てしゃべるのが苦手だった,特に男性,男性がとても嫌いだった。

 

顔しか見ていない,力に頼ればいいと思っている,女より有利だと思っている,思ったことをすぐ口に出す,性的なことしか考えていない,そんな状態でも強いのは男だ。

 

彼と二人きりで話す機会,その一度目,彼とすんなり目を見て話せたのが印象的だった,彼は仕事で忙しい中,どんな部署なのか,その他の部署がどんな役回りなのか教えてくれた,伏し目がちで,それでいてまっすぐと私を見てくれる彼の瞳はとても澄んでいて,そしてどこか寂しげだった,その寂しさが何かはその時は分からなかった。

 

しかし,でも,きっと,私も同じ寂しげな双眸で彼を引き寄せたのだろう,彼は,私と彼自身,似ている部分があると思ったらしい,表情の動き,眼差し,話し方から,彼は私のほんの少しを知っていた,最初から。

私のことを何一つ知らない友人も多くいる,その中でだ。

 

私の話をしようとなるととても長くなるので直接聞いてほしい,それはその日を無駄に費やすことになるが,この世界が仮に舞台なのだとしたら,私が今まで書いてきた脚本の中で私はそう,一番の悲劇のヒロインだと今は言い切れる。

 

愛,寂しかった,だれでもいいから愛してほしかった,私そのものを愛してほしかった,性別を超えて好きになった人がいた,センシティブで,正にそれが極上の愛だと思っている傍らで,SEXができるかどうかが恋愛の大きなカギになるという感覚が,自分の中で矛盾していることは分かりながらも抱え込んでいた,彼女はとても素敵な人だった,自分の意志を持って,強かでそこか陰のある女性だった,支えてあげたかった,でももう,今愛しているのは別の人だ。

 

15歳という歳の差は大概の人はネックに感じるだろうが,私からすれば刺激に欠けない素敵な日々を送らせてもらえている,ネックなことなど何もない,恋愛に年齢など関係ない,問題はその時に考えればいい,異論何て認めない。

私は交際歴がない,この人で終わりにしようと思っている,数日前友人に分かれることを勧められた,恋愛の経験を積んでから結婚に臨めと言われた,私は言葉に詰まった,恋愛にそんなもの関係ない,愛している,心から愛している,足りない部分は補えばいい,けんかになったら話し合えばいい,合わない部分は妥協するか話し合えばいい

 

歳の差が何だというのだろうか,経験が何を物言うのだろうか

彼が私を置いて先に旅立とうが,彼がよぼよぼになろうがぶくぶくに太ろうが彼が今の職をやめようが心の病気になろうが私が支える立場になろうが私は彼を愛している。

私は彼の容姿も含め,第一に人格に惚れたから,彼の指輪が外れた時から,運命だと思っていた,優しさに触れた,薄汚れたガラスを彼が拭いて,一緒にいろんな絵の具を塗った,それを忘れはしない,忘れたくない,愛している,ずっとこの先も一緒にいたい,15歳差,私に交際歴無し,心の病気持ち,家庭不和,私はリスキーな立場に立とうが彼とこの先の人生を一緒に歩きたい,結婚したい,だから結婚したい,それ以上に,何の理由が必要なのだろうか