どう足掻いても♀

百合の花が咲き乱れていて,貴方はそれを唯々むさぼるように汚らわしく口にねじ込んでいた,とても汚くて,とても醜くかったのに,なぜか私の虹彩は貴方という存在を網膜上の認識から外せなかった,貴方が吐く硝煙,ブラックストーンの眉をしかめたくなるほどの甘ったるい包まれて,私は思わず淡いピンクのリップを塗ってしまった。

 

プレゼントのリボンはほどかれなくてはならないと誰かが言っていたように私達もいずれは血を流さなければならない時が来る,シャトーマルゴーのような黒に近い赤が,私を私タラ占めるものだと改めて認知させる,下に絡めたキャラメリゼははいつまでも舌の根に残っていてあなたと私を繋ぐ唯一の架け橋が,互いの口元構築される,それも一瞬の出来事に過ぎない,一瞬,一瞬だけだよ,一瞬,肌と粘膜の接触,ただそれだけ,網膜の認識も,一瞬だけ,触り触られ,ただただ互いの独りよがりな快楽を貪るだけの…,あぁ…,ほら,ねえ,耳を澄まして,聞こえるよ,もうすぐ…,獣じみた不協和音のオペラが聞こえるよ。

 

月面から泣きはらしたかのような真っ赤な瞳をしたウサギが一羽,私たちの行為を見つめている。

 

目の前の相手が愛おしいのか殺したいのか分からなくなるまでに混ざり合って,もうどちらが私で,貴方が私で君が貴方でお前が貴方で私はお前で…

 

貴方が,百合を貪る貴方が,ウサギのような瞳をしているのが悪い。

 

白い身体に桜をちりばめてもいずれは散ってしまう,貴方はまたそのウサギみたいな目で人を魅了させ,服の下に隠されたリボンをたやすく解いていく,いいの,それでいいの

だって私さえ気持ちよくなればそれでいいから!

だから,ねえ,もっと,もっと深く,もっと酷くしてよ,今まで傷ついてきた分,何も考えられなくなるほどに,この世界に貴方と私しかいないんだって錯覚させて。

 

コーヒーを零した真っ暗な夜に,ガムシロップとミルクが混ざり合っていく

くだらない行為,生産性なんてない,でも,貴方が私につけてくれた,むせ返るほどの硝煙の匂いだってどうせそんなもんだと,月面か見ていたウサギも瞳にしわを作りながら笑っている。

 

あざ笑う?気持ち悪い?独りよがり?それじゃあ何のため?ある見えない規定に定められた常識のため?確証もない未来のため?私に似た誰かを作り上げるため?

 

あるいは私が正常であったことを声高々に証明したいだけ?飽和して消えていく下らないシュピレヒコール,と,かすかに聞こえるドロドロに溶かしたチョコレートのような,甘ったるい声にならない声,本能の欠如

いいえ,これが人間そのものよ

森の奥,月の下,百合畑の中で,私達は,私達である所以を求めている。