砂糖でできた女

 

 

パンは焦げてないほうが好きです。

あまり焦げてないほうが好きです。

 

飴色、表面に白の固形を、労るように優しく優しく、銀色のナイフですり込めていくのが、大好きです、あとパンの耳はちぎって無かったことにしてしまいます、でも、あとでちゃんと食べます、分かってるから、嫌だけど、嫌いだけど、飲み込みたくないけど、頑張って噛みしめます。

 

表面はまるで河原の傍にひっそりと、それでいて荘厳にゆらゆらと揺れる稲穂たちのようで、そこに、無機質な、白、しろ、シロ、稲穂は消えてしまいました、枯れた、惚れた、それでいいのです、黄金の景色は虹彩にこびりついたりなんかしない。

本当はずっと眺めていたかった、それは嘘だけど、それなのに、無かったことになってほしい、無かったことになればいい、無かったことに何てさせないよ、ずっとずっと、上に白と黄色はいらないし、薄いピンクも、紫陽花色とワインレッド、あとオレンジさえあればいい、その食欲をそそる心地の良い温もりも、鼻の奥を優しく擽るその感触も

 

脳が全てを覚えてる、鼻、脳、瞳、唇、すべてが一つになるその瞬間さえも、全てが愛おしい

全てが際立っていた、バーガンディのキスを塗ったくって、咀嚼、咀嚼、咀嚼、言いたいこと、沢山あった、あったなんて、そんなずるい言葉をぽつぽつと降らせる私の顔色はいつもより血色が良くて

そんな私の無価値でくだらない言葉、喉の奥につっかかって出てこない、狡賢い私の赤い唇から零れ落ちた言葉を、混ざり合いすぎたそれを貴方は美しいと言ってくれない、そんな言葉に、私に価値はない

 

…それは、まるで煮詰めたローズヒップティーそのもので、匂いも味も、深淵に引きずり込まれそうな、赤、ずっと見つめていたかったんだよ、本当は、カップに口紅がずっと残ればいいと思っていた、私の食道を撫でるのは貴方だけでいいと思っていた、ずっと私のお腹の中に居てほしいと思っていた。

 

…貴方の悪い部分だけ取り除いて、私の血肉になればいい、そのパンのかけらさえもが汚物として出てくるのはどうしても許せなかった、吐瀉物の中から言葉を救い上げて、愛してる、愛してるってば、…嘘よ…涙だけが身勝手に浅ましく零れ落ちる。

情けない嗚咽と、反響する、白、ただそれだけ、辞めてよ、うるさいなぁ、辞めてよ、グリセリンのような涙が零れ落ちて、お皿の上から、浅ましいのはお前だと見つめている。

 

辞めてよ、知ったふりをしないで、貴方に、私の、何がわかるの。

 

バターナイフで塗り替えた、私の前に現れない、銀のスプーンもフォークも、ナイフも、ただ、ただ、ただただただ、ナプキンも破いて、汚れた甘い指を舐って、飲み込んだその言葉、胃液と一緒に汚らしくぶちまけた、美しい、美しい私の吐瀉物を、誰でもいいから掬い上げて。