酒鬼薔薇聖斗への手紙

右手にペンを、左手にはパンを。

 

「透明な存在」誰もが今いる環境、状態の言語化に悩み、苦しみ、時には腕を切って薬を飲んで、その一言が見つからないために、ビルの屋上から真っ逆さまに天国までダイブしてしまった人たちの言葉を、貴方は容易に赤のインクで書き留めた、あの手紙に、貴方の存在に助けられた子羊の解決しようのない問題、この世界の不条理で汚い現実の一端をメディアへ大々的に突きつけ、浸透させた、これは私の邪推ですが、貴方の言葉、犯行声明、存在に救われた人は、かの夜回り先生が救いきれた人間よりはるかに多いと思っています、かくいう私も11年の月日が経った今、貴方の犯行声明に涙を流した一人です。

 

遅くなりましたが初めまして、中年になった、「元・透明な存在」の酒鬼薔薇聖斗さん、今、出生する前の事件であるにもかかわらず、周りの同年代の子達の前で貴方の名前を出せば「あぁ、なんとなく知ってるよ」と返されます、私が貴方の名前を知ったのは中学1年生くらい、まとめサイトで貴方の特集を閲覧しました、当時は暇つぶし程度に見るだけでしたが、先月ブックオフに訪れた際、引き込まれるように貴方への手紙が掲載された本を手にしてました、貴方に言われようのない暴言を吐く方、貴方を崇拝していたという方、そして貴方に執筆を勧める方々、正直、私は羨ましくなりました、小さく尊い命を奪い、その尊厳まで自己の汚らしい精液で汚した貴方が、いきなりコネを貰うなんておかしいでしょう(編集の方たちの勝手であります)

もう一つ羨ましいのは、貴方宛てに手紙を送った方々、皆さん、執筆経験のある方々で読んでいて一切飽きないレベルのラインティングスキルの持ち主、私が羨ましいと感じたのはそのスキルではなく、貴方宛てに手紙を送れた挙句それが本として出版されたこと、まぁ正直、羨ましいとかそんな邪な考え抜きにして、純粋に貴方宛てで手紙を書いてみたいなと思いました。

 

そういえば、大分前「絶歌」を出版されましたね、当時様々なSNSで騒がれていたことを覚えています、タイトルを見てまず、あぁ本当に酒鬼薔薇聖斗さんが書いたんだなと単純ですがそう思いました、言葉選びのセンスが独特だと思います、すごい、見習おうとは思わない領域ですが本当にすごいと思っています、ちなみに私は購読しておりません、なぜかって?買うか買わないか迷ってる間に、絶版になってしまったからです、薄々予想はしてましたがね、罪の影響が大きすぎたようで。中身のネタバレも流れることはなく、ただただ謎の本で絶歌は世に回らなくなりました、酒鬼薔薇聖斗さん、貴方はその時何を思いましたか、過去を、透明な存在時代のことを思い出し、自分の人生に悲観しましたか、そして、絶えた、絶える、絶つ、歌、絶歌、貴方はこのタイトル、どういう思いでつけられたのでしょうか。

私は、貴方よりも一回り年下です、貴方に対して、手紙の総集編で書かれていたようなアドバイスは到底できません、一つ言うとすれば、今後何が有っても再犯することのないように、この先激動の毎日が長いこと続くでしょう、重ねて手紙の総集編では触れられてませんでしたが、辛く見通しが無いからと言ってシャブとかに手を染めたらだめです、手を出したら貴方はきっと永遠に再犯のループから抜けられないでしょう、私が貴方の立場だったら絶対揺らぐと思うので。

 

そしてあの時「透明な存在」だった酒鬼薔薇聖斗さん、お元気にしてますか

貴方の声なき声は地響きのように反響し、影響を及ぼしたかのように思えましたが、どうやら当時のニュースや記事等を拝見すると、猟奇的な部分ばかりに目がいってたようで、貴方の声なき声は、同じ境遇にあった、もしくはあっていた人にしか届かなかったようです、それでも、未来の貴方はもう透明な存在ではありません、正しくは犯行声明をあの子に咥えさせてから、貴方は不器用ながらも自分自身に自己顕示欲の絵の具を塗り始めたのです、そうですね、絵画で例えるならピカソです、認知度もそうですが画風もあなたそっくりだと私は思います、色んな人の汚れた推測と少しの真実とでごちゃ混ぜになり、使い古しの汚い色の油絵の具を塗ったくったかのような、そんな汚ならしくもカラフルで穢れた存在、もう、貴方を目視できない人なんていないのです、目視したくなくても、してしまうのです、貴方はそんな存在になってしまいました、貴方がどんな人生を送ってきたのか、どんな言葉を聞き、何を目にしてきたのか、推測するにはあまりにも私の人生は乏しすぎます、でも、面会に訪れた母親に泣きながら「帰れ豚野郎!」と叫び散らした気持ちは、なぜか痛いほどよくわかるのです。私も貴方も、運が悪かった側の人間なのです。

 

あ、そうです、私は貴方を肯定するつもりは毛頭ありません、帰らざるものを待つ気持ちを、私は昔体験したことがあるからです、底知れぬ寂しさを貴方も日々感じていたのかもしれませんが、それの比ではありません、1日、2日、3日、1週間、3か月、1年、3年、10年、貴方もいつか、失いたくない存在ができたとき、やっと自分が犯した罪の重責にほんの少し気付くことができるでしょう、それでも、時の重さ、本質への理解ができないまま、貴方は生涯を送るのです、その愚かさを解決できず何かに纏わりつかれるように生きるのが、貴方にとって最大の贖罪なのではないでしょうか。

犯行声明を見て思いましたが、貴方はあの時、ナイフではなく、ペン先に殺意を認めるべきでしたね、もし別の世界の貴方が本を書いたなら、今とは違う美しい色を身に纏った貴方が、抜け穴からひょっこりと顔を出していたかもしれないのに。