詩劇「リアル・スナッフ・フィルム」

詩劇「リアル・スナッフ・フィルム」

作:鷹野皐月

 

写真部の女A

写真部の女B

写真部の女C

写真部の女D

写真部の女E

 

A:「美しい朝に、紺色のセーターが靡いている、白いブラウスとスカートのプリーツ、肉体はその下にある、血液がどろどろと歩く、私と貴方との間に足跡を残しながら」

B:「それはまるでザクロのような美しい赤、宝石でしかない、あなたの赤ならなおさら宝石でしかないのだ、永遠だ、永遠ともいえる一瞬でしかないのだ、全て」

C:「全てと同じだ、大多数と同じ、人はみなロボットだと思っていた、血液が流れてるのは自分だけで、他の人間はオイルと精密な何かで作られているのだと思っていた」

D:「『し』だ、紛れもない『し』が見たかった、あんただってそう思ったことくらい一度はあるだろう、いや、二度、三度、何度もある、そうだろう」

E:「人生はドラマで、私達が経っているこの地面こそが舞台なのだとしたら、16mmのフィルムから覗いてろ、銀色のレンズ越し、人の『し』」

A:「こんなことになるなんて思っても無かった、なんて安っぽい言葉はきたくないの」

B:「始まり、小視聴覚の小部屋、斜陽は私達をちゃんと照らしていた、いや、夕日だったのかもしれない、いや夕日だ、燃えるような夕焼けは、あの時も赤かった、赤?どんな?」

C:「ただただ、シャッターを切ってばかりの日々」

D:「毎日同じ朝、夕日の繰り返し、月は同じ場所から上って同じ場所へ帰っていく、つまらない、わけではない、私達は毎日楽しかった」

B:「心の奥底燻ぶられる毎日だった」

C:「毎日同じことの繰り返しだった」

D:「でも楽しかった」

E:「なわけないじゃん、たった一言に覆される軽い毎日に価値何て存在するわけない」

A:「そんな心の底を探り合う毎日」

B:「心の裏を見せ合うような、滑稽、無いはず、心が、色づく」

D:「それはまるで血のスープのような」

C:「見えない心の内を抉り出す毎日」
D:「だけど大好きだけど大嫌い、嫌い、嫌い、嫌い」

E:「嫌い、嫌い、嫌い、嫌い」

D:「でも好き!」

A:「だぁいすき、愛してる、骨の髄まで」

C:「見て見たい、撮ってみたい、スナッフフィルム」

D:「所詮そんな関係だった」

B:「いや、それだけじゃなかったよね」

A:「めんどくさい女!ほんと早く死んじゃえばいいのに!」

E:「スナッフフィルム」

C:「ビデオを回す音」

E:「女、少女、いや、私達はまごうこと無き女、お前らが想像する醜い生き物、女、女、女、女」

A:「その身体に刃物を突きさす、いや、まるでケーキを切るときのように優しく刃物を突き立てる、そしてスッと引く、血液が止まらない、止まらない!全然止まらない!」

B:「血液が全部零れてしまった空っぽの容器の中、覗き込んでみたい、そしたら!」

D:「何かが変わってほしいだけ、補いたいだけ」

C:「人が死ぬところを見て見たいだけ」

E:「気持ち悪い」

C:「」

D:「でもアンタ達だって興味はある」

B:「ない」

A:「ないわけない!好きになれるかもしれない、嫌いになれるかもしれない!アンタのほうが綺麗だって思いこめるかもしれない」

B:「バカらしい」

C:「あほくさい」

D:「そんなあなたは今でも空からコーラの雨が降ってくることを信じてる」

E:「豚のように生きてそして死んでほしいのに貴方はどんどん綺麗になっていく」

D:「スナッフフィルム」

C:「死ぬとこを一番見て見たいのは誰?一番誰が死ぬとこを見て見たい?誰が死ぬとこを一番見て見たい?」

B:「誰」

A:「誰」

E:「誰」

C:「誰」

D:「誰?」

A:「誰でもいい」

B:「いいわけがない」

C:「私がいい」

D:「あの子がいい」

A:「私だってやりたい」

E:「何言ってんの」

A:「赤い唇」

B:「長いまつ毛」

C:「白い肌」

D:「色づいた頬」

E:「透明な瞳」

B:「羨ましい、あんただけ何でも持ってる」

A:「アンタのそういうとこマジで嫌い」

B:「私のどこが嫌いなの?知ったように語らないでよ」

A:「何でも知ってるよ」

B:「死ねよ」

B以外の全員:「アンタもね」

A:「初めは小さな切り傷に過ぎなかった、それは痕、かさぶたになることを許さなかった、血液は永遠に固まらない、溢れ出たら止まらない、別に止まらなくてもいいけど、ね?そうでしょ?そう思うでしょ?」

E:「だって私が一番綺麗でいたいから、汚いとこなんてないの、私は何の欠陥も無い、証明するものなんて何もないけど」

C:「美しい夜、美しい夜…」

D:「銀色、のような、凍えそうな子供だった」

C:「ほら見て、お月さまが見てる!」

D:「お月さまだけが見てる」

C:「銀色のお月さま」

A:「誰でもいい、そんな消費されるだけの存在」

E:「みじめね」

A:「アンタだって同じよ」

E:「そんなこと言わないでよ、ずっと気持ち悪い、きっと死んでからもそのまんま」

B:「何度死んだって治りゃしない」

C:「アンタだって、同じよ、死んだって治らないから!」

E:「執着」

A:「執着心」

D:「イフ、イフ」

B:「ビデオを回す音」

C:「パシャパシャパシャパシャ…」

全員:「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

A:「切り傷」

D:「切り傷」

B:「切り傷」

C:「そこから溢れ出る血」

A:「ワイン、ワインレッド、ボルドー、黒、赤、赤、赤」

E:「ドクドクドクドク」

D:「光る、光る、銀色のナイフ、キラキラ光る、キラキラしててとても綺麗!それはまるで!」

全員:「あぁ、まるで、まるでそれは!」

E:「ああああああああああああああああああ!!!!」

全員:「やばいやばいやばいやばい」

A:「空気」

B:「暗幕」

C:「カメラを回す音」

D:「レンズ」

C:「緊張感」

B:「銀色」

A:「ヘモグロビン」

D:「脂肪層」

C:「フィルム・スナッフ」

B:「血液」

C:「血液のような」

A:「零れてしまったシャトー・マルゴー

D:「陶器」

A:「青」

B:「白」

C:「灰色の脳細胞」

D:「白」

A:「骸骨」

D:「四肢、転がる四肢、青白い四肢」

B:「赤に浸る骸骨」

C:「私だけだ、私だけだ、これは私だけだ、やっと、やっとだ…」

E:「気持ち悪い」

A:「抱きたい女、だって、だってさぁ、ねえ」

B:「綺麗よ、ねえ綺麗よ、剥き出しの貴方、綺麗よ」

C:「お前の中身何て死んでも誰も見てくれない」

E:「そんなものでしょ」

D:「毛が逆立つ!嫌悪感と反射的な気持ち悪さ、まるで父と母の秘密を見た時のような、気持ち悪い!!」

E:「気持ち悪い」

A:「でも興奮してる、それを上回るくらい興奮してる」

B:「欲、情、情欲」

C:「世界で一番美しい」

E:「そんなつまんない言葉で表さないでよ」

D:「安っぽいフィルムと安っぽい言葉」

C:「作り物だって思ってよね」

E:「文字であらわされた美女より、絵画で描かれた美女より、フィルムで切り取られた美女より遥かに、何もかもが美しい赤で彩られた現実、包み隠さず」

A:「皆カメラマンのふりをしている」

B:「情欲の瞳で濡れている」

A:「ただそれだけ」

B:「それだけじゃないでしょ」

E:「ずーっとめんどくさい女のままでいて!」

C:「丸裸の女、赤い女、剥き出しの、全部の女、さらし者、曝け出した女、剥き出しの女」

E:「好きでしょ、こういうの」

D:「心臓が今までにないくらいドキドキしている、いや違う、私自身が脈打って私自身が心臓になってしまったのだ」

A:「じゃあ今被写体となっているこの女は一体?」

B:「何だっていい、どうだっていい、もうどうなったって構わない、誰かをこの手でした、した、犯した」

E:「そんなつまらない言葉で表さないでよ」

B:「ある種の優越感と愉悦、二度味わいたい苦しいくらいの快感」

B:「気持ちいい」

E:「気持ちいい」

B:「あぁ…」

D:「ずっとずっと、この永遠ともいえる一瞬、一瞬ともいえる永遠、この上ない、つまらない、醜く、美しい、それを見つめながら私はきっといつまでも生きていける」

全員:「それだけでいい」

E:「それだけでいい」

A:「美しい」

E:「それだけでいい」

B:「妖艶」

E:「それだけでいい」

D:「醜い」

E:「それだけでいい」

A:「抱きたい」

C:「汚らしいなぁもう辞めてよ!!!カメラを止めて!!」

A:「辞めて、止めて、シャッターを切らないで」

B:「フィルムを燃やさないで」

D:「現像しないで」

E:「思い出にしないでってば」

A:「いつまでも欠陥だらけ、死んでも!生まれた時から醜い生き物なんだよ私達は!!」

B:「アンタと一緒にしないでよ!!」

C:「ホントに嫌い」

D:「でも好き、だぁい好き」

C:「大好き」

D:「愛してる」

C:「抱きたい」

A:「それだけでいい」

B:「よくないって」

C:「でも綺麗」

D:「愛してる愛してるってば」

E:「それだけでいいそれだけでいいでしょ?」

C:「…好きよ」

E:「醜くズタボロに引き裂かれた、私がこの世界で一番美しい」

全員:「ええ、美しいわ」

A:「私は銀色まんまるお月さま」

E:「銀色の、銀色のまんまる、レンズ、レンズ、レンズ越しの誰か、見て、私、見て、誰か、誰か、誰でもいい、誰でもいいから」

C:「スナッフフィルムが見てる、フィルム越し、ワインと骸骨に過ぎないものなのに」

B:「何度も何度も、何度も」

A:「美しい夜だった、凍えるような美しい夜だった、たった一度」

B:「小視聴覚の小部屋、銀色、色、色、色、スナッフフィルムと、緊張感」

C:「まるでザクロのような美しい赤、フィルム、そして赤、美しい、妖艶、まるで、そして、安っぽい言葉」

D:「16mmのフィルム、汚い、醜い、そんなもん、嫌い嫌い嫌い、でも、そして、だって、だけど、そして、醜くズタボロに引き裂かれた」

E:「私がこの世界で一番美しい」

C:「ええ」

全員:「美しいわ」

D:「美しい朝と美しい夜、醜いだけの存在、照らさない癖に斜陽なんて」

A:「私達なんて消費されるだけの存在よ!これからも消費され続けるだけよ!!今だって、フィルムと同じようにね!」

C:「血液が流れてるのは自分だけ、愛してる、愛してる、そんな自分が大好きだ、剥き出し、剥き出し、何だっていう、これはただの性欲さ、愛してる」

全員:「剥き出しのキミを愛してる」